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マッセルバラを象徴する
「ダンガリー生地」と「セルビッチ」の真髄。
連載第2回目は、〈マッセルバラ〉のダンガリー生地に着目。
現代の高速織機が1日に数百メートルを織り上げるなか、
マッセルバラが選んだのは、
その数分の一しか織ることができない旧式の「シャトル織機」でした。
効率を捨ててまで求めたのは、
空気を孕んだような、ふっくらとした肌触りです。
フレックスジャパン
Hiroki Hirabayashi
創業80年以上の歴史を誇る老舗シャツメーカーの企画生産担当。素材選びから細部のディテールに至るまで、当社と二人三脚で形にしてきた開発パートナー。〈マッセルバラ〉アイテムにおいては、作り手のこだわりを形にするための仕様設計と技術監修を統括。
効率の対極にある、”贅 ”。
着た瞬間に感じる生地の柔らかさ。
「シャトル織機」によって生み出される余白。
現代のテキスタイル産業は、効率を追い続けてきた。より速く、より均一に、より大量に。高速織機の登場によって生地の生産は飛躍的に向上し、いまでは一日に何百メートルもの布が次々と織り上げられる。
だが、マッセルバラが選んだのは、その逆の道だった。
兵庫県西脇市に拠点を置く桑村繊維株式会社。ここには、今では国内にほとんど残っていない「シャトル織機」が稼働している。ガチャ、ガチャと一定のリズムを刻みながら、ゆっくりと布を織り続ける機械たち。
1日に織れる生地はわずか40~45メートル。高速織機の足もとにも及ばない数字だ。それでも、この場所から生まれる生地だけが持つ表情がある。袖を通した瞬間の柔らかさ。それは、数字では測れない「余白」から生まれている。
時代に逆行する速度。
高速織機と、シャトル織機。両者の最も根本的な違いは、縦糸にかかる「テンション」にある。高速で生地を生産するには、縦糸をピンと強く張り続ける必要がある。張力によって糸が引き締まり、生地は薄く、硬く仕上がる。効率的ではあるが、それは糸本来の柔らかさを犠牲にしてもいる。一方、シャトル織機は縦糸を強く張る必要がない。横糸がシャトル(木製の杼)に収まり、ジグザグと弧を描きながら縦糸の間をくぐり抜けていく。そのゆるやかな往復運動が、糸に「ゆとり」を与える。その結果として生まれるのが、あの独特のふっくらした風合いだ。繊維の間に空気が含まれ、素肌に触れた瞬間に感じる優しさ。これは、シャトル織機でしか生み出せないものだ。
機械は古く、生産速度も遅い。稼働できる職人も限られていて、22台あるシャトル織機はすべて年代物だ。調子の良しあしもあり、手間もかかるため、実際に動かせるのは常時13台程度。壊れた部品は替えがないため、補修、時にはほかの機から部品取りしながら、丁寧に使い続けている。それでも、この織機を手放すわけにはいかない。なぜなら、この機械だけが、あの柔らかさを生み出せるのだから。
「手間はかかるが、その手間をかけてでも、この稀少価値のある生地を世に出していかなければならない使命が私たちにはある」と語る、桑村繊維株式会社の切貫氏。
控えめな矜持、
「セルビッチ」の証
切らない、だから整う。
普通の織機は、横糸を「切る」。生地の幅に合わせて糸を切断しながら織り進むため、生地の端は横糸が切れたまま、ほつれやすい状態になる。
シャトル織機は違う。横糸を切らずに、折り返しながら往復し続ける。糸はジグザグに、弧を描きながら端まで届き、そのまま折り返す。だから生地の端は切りっぱなしにならず、自然ときれいに整うのだ。
この整った生地の端こそが「セルビッチ(耳)」と呼ばれるもの。デニムの場合は赤い耳糸が入ることから「赤耳」とも称され、シャトル織機で作られた生地の証として世界中で認識されている。 見せるためのディテールではない。ただ、そこにある。袖口からのぞく一本の赤い線が、その生地が正しい手順で丁寧に織られたことを静かに語っている。 大人の自己満足を満たす、控えめな品格。それがセルビッチというディテールだ。
「細くない」という選択。
マッセルバラのダンガリーに使われる糸は、20番手の単糸ムラ糸。「番手」とは糸の太さを表す単位で、数字が大きいほど細い糸になる。 高級ドレスシャツには80〜100番手の細糸が使われ、一般的なカジュアルシャツでも40〜60番手が主流だ。それに対して20番手は、ずっと太い。
太い糸は素朴で、どこか素直な表情を持っている。均一ではなく、ムラがある。その不均一さこそが、ワーク系のシャツに宿る「力感」と「味」の正体だ。 糸の太さと織機の遅さ。この組み合わせがはじめて、マッセルバラのダンガリーを完成させる。
効率よりも大切な、時間の織りなす表情。
速さでも、安さでも、派手さでもない。正しい手順で、正直に作られた生地が持つ表情。それが、マッセルバラのダンガリーシャツに宿っている。袖を通すたびに、西脇の工場でゆっくりと織られた時間が広がっていく。
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